診療報酬請求事務能力認定試験の受験者数が激減した3つの理由
医療事務系最難関資格である診療報酬請求事務能力認定試験は2023年12月22日(金)
に実施団体の公益財団法人日本医療保険事務協会様から突然に第63回(2025年12月)
で終了すると告知されました。医療事務業界の関係者の誰もが一目置く権威性を誇って
いた公的資格の終了宣言の衝撃度は凄まじいものでした。主催者様からは『少子化等で
受験者数が減ってしまって事業の継続が困難になって.. 』と事情の説明がありましたが
レセ認の資格試験の申込者数が激減した理由は何だったのか?真相を分析してみます。
目次
レセ認(医科)の受験者数が激減した3つの理由
『少子化で受験者数が減ったこと等が原因で.. 』という説明には当初から違和感が有り
ました。診療報酬請求事務能力認定試験は30年以上の歴史と伝統が在る資格です。本当
の理由は一体どんなところにあったのか?について当サイトの編集部の担当者はその後
独自に分析を続けてきました。因みにレセ認(歯科)では資格試験を開始した当時から
受験者が3桁程度だったので、公益財団法人日本医療保険事務協会様の経営面の懐事情
に影響が無かったと考えます。読者の皆さんにも率直なご意見をお寄せ頂きたいです。
理由1 競合する医療事務の資格が多いから
競合する他の医療事務系の資格が多く在ることが最も大きい理由です。ざっくり調べた
だけでも次のような類似の資格が出てきます。これでは受験者は分散してしまいます。
- 診療報酬請求事務能力認定試験(レセ認)(医科・歯科)
- 医療事務技能審査試験(メディカルクラーク)(医科・歯科)
- 医師事務作業補助技能認定試験(ドクターズクラーク)
- 医師事務作業補助者検定試験(ドクターズオフィスワークアシスト)
- 医師事務作業補助者実務能力認定試験
- 認定医師秘書(医師事務作業補助業務実務能力認定試験)
- 2級医療秘書実務能力認定試験
- 医療秘書技能検定試験
- 医科医療事務管理士技能認定試験
- 医科医療事務技能認定試験(医療事務技能士認定試験)
- 医科2級医療事務実務能力認定試験
- 医療事務実務士(医療情報実務能力検定試験)
- 医療事務(医科)能力検定試験
- 医療事務認定実務者試験
- 医療事務OA実務能力認定試験
- 電子カルテオペレーション実務能力認定試験
- 医療事務検定試験
- 医事コンピュータ能力技能検定試験
- 医事オペレータ技能認定試験(メディカルオペレータ)
- メディカル・フロント・コンシェルジュ技能認定試験
- レセプト点検業務技能検定試験
- 保険請求事務技能検定試験
- クリニック事務技能認定試験
- 医療保険士試験
そしてメディカルクラーク(医科)を筆頭として他の資格は概ね診療報酬請求事務能力
認定試験よりも受験者数が多くなっています。現状で医療事務関係の資格試験の市場は
非常に競合が激しいレッドオーシャンの状態です。その状況で長きに渡って生き残って
いくには相当な経営努力を求められ、放漫な経営体制だった為と言わざるを得ません。
理由2 紙のレセプトの出題形式が古いから
現在、紙媒体のレセプトを使用していて診療報酬の算定業務の担当者に手書きで計算を
させている医療機関が全国に一体どのくらい有るでしょうか?ほぼ全ての医療機関では
レセコン等の機器を利用していると推察されます。令和の時代に資格試験の出題形式が
古めかし過ぎて時流に全く合致していないことも大きな理由と言えます。例えば途中で
CBT等の他の形態にもし変えていたら、試験の実施団体を解散するという最終的な判断
にならずに済んだのではないでしょうか?時代背景や市場のニーズも重要な要因です。
理由3 試験の難易度が無駄に高過ぎるから
診療報酬請求事務能力認定試験は他の資格と比較して著しく難易度が高いです。一方で
資格試験の出題形式が時代に合っていない面があり、合格する為に受験勉強での時間と
労力の負担が大きいのに医療の現場であまり役に立たないスキルを求められています。
そして医療事務の仕事に就くにはメディカルクラーク等の他の資格があれば十分に就職
や転職ができてしまう現況にあります。これでは大変な思いをして医療事務として働く
為にレセ認の資格に挑戦しようと多くの方達が思わないようになるのも納得できます。
まとめ
医科の実施回と年次 | 受験者数 | 合格者数 | 不合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|---|
第61回(2024年) | 2594人 | 1069人 | 1525人 | 41.2% |
第60回(2024年) | 1665人 | 553人 | 1112人 | 33.2% |
第59回(2023年) | 3659人 | 1771人 | 1888人 | 48.4% |
第58回(2023年) | 2446人 | 905人 | 1541人 | 37.0% |
第57回(2022年) | 4162人 | 1502人 | 2660人 | 36.1% |
第56回(2022年) | 2313人 | 655人 | 1658人 | 28.3% |
第55回(2021年) | 4913人 | 1934人 | 2979人 | 39.4% |
第54回(2021年) | 3138人 | 1177人 | 1961人 | 37.5% |
第53回(2020年) | 5378人 | 2304人 | 3074人 | 42.8% |
第52回(2020年) | — | — | — | — |
第51回(2019年) | 5337人 | 1469人 | 3868人 | 27.5% |
第50回(2019年) | 3947人 | 1374人 | 2573人 | 34.8% |
第49回(2018年) | 6119人 | 1738人 | 4381人 | 28.4% |
第48回(2018年) | 3894人 | 1618人 | 2276人 | 41.6% |
第47回(2017年) | 7019人 | 2152人 | 4867人 | 30.7% |
第46回(2017年) | 4688人 | 1479人 | 3209人 | 31.5% |
第45回(2016年) | 7232人 | 2840人 | 4392人 | 39.3% |
第44回(2016年) | 4581人 | 1339人 | 3242人 | 29.2% |
第43回(2015年) | 8038人 | 3107人 | 4931人 | 38.7% |
第42回(2015年) | 5529人 | 1845人 | 3684人 | 33.4% |
それから少子化が主な原因であると主張するのなら、それは他の資格においても条件は
同じです。でも他の資格は受験者数の減少により試験を終了するとは宣言してません。
少子化とは別に、医師事務作業補助業務を含めて医療事務の仕事にどのくらいの需要が
世の中であるのか?そしてどのように他と差別化を図って生き残っていくべきなのか?
は大きな命題です。資格試験の実施団体では喫緊の経営課題として考えていかなければ
なりません。医療事務の職種において業務の内容や待遇の条件の面で労働者の満足度を
上げて業界の内情を改善していけなければ他の資格も遅かれ早かれ同じ末路を辿る展開
になるでしょう。少子化を主な理由とするのは世の中の本質を見誤っている証左です。
歯科の実施回と年次 | 受験者数 | 合格者数 | 不合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|---|
第61回(2024年) | 39人 | 14人 | 25人 | 35.9% |
第60回(2024年) | 34人 | 13人 | 21人 | 38.2% |
第59回(2023年) | 60人 | 21人 | 39人 | 35.0% |
第58回(2023年) | 77人 | 24人 | 53人 | 31.2% |
第57回(2022年) | 62人 | 21人 | 41人 | 33.9% |
第56回(2022年) | 48人 | 18人 | 30人 | 37.5% |
第55回(2021年) | 76人 | 27人 | 49人 | 35.5% |
第54回(2021年) | 62人 | 22人 | 40人 | 35.5% |
第53回(2020年) | 72人 | 25人 | 47人 | 34.7% |
第52回(2020年) | — | — | — | — |
第51回(2019年) | 92人 | 25人 | 67人 | 27.2% |
第50回(2019年) | 58人 | 23人 | 35人 | 39.7% |
第49回(2018年) | 95人 | 26人 | 69人 | 27.4% |
第48回(2018年) | 53人 | 19人 | 34人 | 35.8% |
第47回(2017年) | 95人 | 36人 | 59人 | 37.9% |
第46回(2017年) | 70人 | 25人 | 45人 | 35.7% |
第45回(2016年) | 123人 | 42人 | 81人 | 34.1% |
第44回(2016年) | 82人 | 28人 | 54人 | 34.1% |
第43回(2015年) | 143人 | 49人 | 94人 | 34.3% |
第42回(2015年) | 66人 | 23人 | 43人 | 34.8% |
上記のグラフをご覧頂ければ分かるように診療報酬請求事務能力認定試験の終了を発表
した後にかけ込み需要で受験者数が爆増したりは決してしてないです。それどころか、
医科も歯科もしっかり申し込み者数が減っています。つまり歴史や伝統と権威性がある
医療事務の最難関の資格とか言われつつも、実質的なニーズはもはや無いと言えます。
難易度が高い資格試験を永く実施しているだけでは結局世間はついてこないということ
です。時代に合せて柔軟に変化を遂げられなかったことが敗因だと結論づけられます。
